断片的な思い出 三 「鎌倉幼なごころ」
海水浴で民宿に一泊して木更津からフェリーに乗り川崎に渡ったその足で鎌倉の親戚を訪ねた。
鎌倉の小町通で眼鏡屋を営むおじさんであった。おじさんといってもどういうつながりの親戚だか定かではない。
初めて鎌倉を訪れた僕はその不思議な雰囲気に魅了された。成長してから鎌倉を散策するのもその印象が根底にある。
鎌倉はその狭い土地の中にごっそりと歴史や人間の縮図が詰まっている。狭いながらも自然を利用して町が創られている。小道を歩いていると前触れもなくぬっと歴史の残骸が顔を出す。切り通ししかりやぐらしかりである。
そんな歴史の匂いを幼子心に嗅ぎ取っていたのかも知れない。なぜか、鎌倉を訪れるたびに同じような心もちになり懐かしい思いでいっぱいになる。
おじさんの家は古い和洋折衷のつくりであった。鶴が丘八幡宮の近くの雪ノ下というとこにあり、鎌倉幕府の建物があったところだ。大きな家が立ち並ぶ閑静な住宅街であるが、家のつくりは僕が住んでいる新興住宅地のちゃちなつくりではない、重厚なつくりの屋敷が軒を並べていた。
おじさんの家の夏場の草木でうっそうとした庭には大きな猫がのっそりと歩き、まるでよそ者を威嚇するがごとく家に入ってきた。
そんな光景しか覚えていないが夜までごちそうになり、一路東村山の家まで帰り僕は車の中で寝てしまい、親父に抱かれて家に入ったのだけ覚えている。