夜風のささやき

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鈴木大司教ママのバースデイ


ゲーム界の重鎮。鈴木大司教の母上の傘寿の降誕祭に招待された。
まず、過去にあるミニコミ紙に連載させて頂いた「武蔵野奇人列伝」の第三話、鈴木大司教の高校時代の様子を転載するのでご覧ください。

鈴木くんは鈴村くんと仮名にしてあります。


 武蔵野奇人列伝3


  鈴村イッセイ君の巻

鈴村君(仮名)は高校の二年後輩である。先に紹介した奥寺君のいわば美術部の直系の弟子である。
彼はあだ名を「イッセイ」と言った。名前を音読みするとそうなるのである。
彼は今様に言えば、デカプリオの如く美少年であった。
目鼻がハッキリとしていて色が白く一見日本人とは思えないような外見であった。
しかしやはり彼はこのお話のテーマの如く奇人と称するに足る資質を充分持ち合わせていたのである。
彼は邪念の全くない、純粋そのものの人であった。しかしその純粋さは一般の目には奇異としか見えない行動をさせていたのである。
彼には当時つきあっていた「しろこ」と言う彼女がいた。やはり保谷高校の生徒でイッセイとは同じ学年、同じ美術部である。しろこの家では家族たちがイッセイが来るのをいやがった。イッセイは頭にターバンを巻きオペラを唱いながら彼女のうちまで自転車でやってくるのである。
これには彼女のご両親はおろか三人いる妹たちまで姉を不敏に思いまた世間体を気にしていたのである。
しかしイッセイは全然気にしなかった。それどころか段々、コスチュームは派手になり近所では彼が現れると拍手喝采をするようにまでなったのである。

彼はなぜか高所恐怖症の反対でなんと云うか忘れたが高いところでサーカスもどきをするのが得意だった。
時々、授業を抜け出し(文字どおり窓から抜け出すのでる)。
二階であれ三階であれ窓のひさしを伝い先ほどのしろこの教室まで行き窓から首を出して「ぱおーん」と吠えて授業中の生徒はおろか先生まで卒倒寸前まで驚かした。
ある日、僕が授業を受けていると高校にサイレンが響きわたり救急車と消防車とパトカーが来たことがあった。
なんだなんだと窓から外を見るとパトカーにイッセイが乗せられたいるではないか。学校中は大騒ぎとなったが校内放送でなんでも無いから授業を続けなさいと言われた。
もちろん僕は休み時間に真相を確かめるべく彼のクラスまで取材に行った。
イッセイはその朝遅刻をした。普通に遅刻をして扉から入って行くのは能がないと思い、外からベランダを登り窓から進入しようと壁をロッククライミングしていた。校舎の向かいのマンションに住んでいる主婦がそれを見つけ119番と110番をしたと言うわけである。
そういえば良く屋上の柵の外をスキップしたり逆立ちで歩いていたりしたのを思い出した。しかし後の話になるが、どこかでホップ、ステップ、ジャンプをしたところ谷底に落ちて1カ月くらい入院したこともあった。
まあそんなわけで彼の奇行は川田君(仮名)や奥寺君(仮名)に比べてどちらかというとエンターテイメント性に富んでいたわけである。

僕はそんな彼とは親しかった。彼の家は下保谷にあり、気の置けない仲間が集っていた。普通の家庭と違って家族ごとオープンなのである。お母さん、お父さんは誰が来ていても歓迎してくれたと言うより気にしないでいてくれた。弟のきゅうちゃん(本名を忘れた)は飛行機が落ちる夢しか見たことが無いという不思議な気持ちの持ち主。妹のみみちゃん(本名だが漢字を忘れた)は本当に素直で可愛かった。要するに家族全員が善人なのである。僕は小さい頃から一人で育ったせいかこの家に来ると何かほっとした気持ちになったのだ。
イッセイとも高校を卒業してからもつきあいがあった。
板橋の看板やで一緒にアルバイトをしたことがあった。しかし彼はたいてい遅刻をしてくるか一日来なかった。そのうち会社の人があきれ果て、彼にクビを宣告したのだがイッセイはしろこにも諭されたのか、心を入れ替えて仕事するからと許しをこうた。会社の人はそこまで言うならと寛大にも許してくれイッセイのクビはつなかった。
しかし彼は次の日も来なかったのである。後はどうしたか忘れた。

先日、15年くらいぶりにイッセイと連絡を取った。結婚するらしい。相手は高校、大学の時つきあっていたしろこでは無かった。僕は結婚式の日、大風邪を引いてしまい出席出来なかった。

彼は今では会社を興し、ゲームデザイナーとして忙しい日々を送っているらしい。

 (鈴村君の巻 了)


このエッセイを書いたのがもう20年程前だから彼はゲーム界で成功して今日に至っていた。
僕とは一昨年再会したのである。
80歳を迎えた母上も父上もご健在で至ってお元気である。
そしてまだ当時中学生だった妹のみみちゃんも二児の母。弟のきゅうちゃんは仕事が忙しく会えなかったが、当時保谷にあった大司教の自宅で一緒に遊んだケンケンこと榊くんにも会えた。

鈴木ご両親の家は昔と変わらずとてもオープンだった。
母上は相変わらず楽しいおしゃべりをしてくれた。
母上は毎日自転車に乗って二駅も三駅も先のスーパーまで買い物に行くのだと云う。
しゃべりっぷりも昔と全然変わらない。若い頃はお芝居の女優をやっていたらしい。
確かに今でも綺麗だ。若い頃はさぞや、、。
鈴木大司教はお母さん似みたいだ。
父上も負けずにお元気だ。
昔と変わらず皮肉の効いた口調で笑わせてくれる。この父上こそ日本のボードゲームの火付役、鈴木銀一郎氏だ。ゲーム業界では知らぬものはいない長老である。
昔、父上がボードゲームを丸めた筒を抱えていたのを覚えている。確かに大司教、ケンケンたちとウォーゲームに興じていた。

大司教の妹の三美(みみ)ちゃんは思った通り美女になっていた。とにかくこの家系は美形揃いである。
気性も物事に囚われない自由な考えの持ち主であることも受け継いている。
お子さんは2人。中2の男の子と小学校前の女の子だ。
この2人がまた面白い。お兄さんは寡黙だがそうとうのイケメン。女の子は鈴木家の自由奔放さを全部体現している。常になにかしゃべり続けているが、めちゃくちゃではない。
しゃべっていることはちゃんとストーリーがあり、理屈が通っていてしかも面白い。
大司教の奥さんは結婚前に一度だけお会いしたことはあった。なんともエキゾチックな女性だ。会ってから二十年近く経つが印象は変わらない。おそらく大司教の自由奔放過ぎる性格を陰で冷静にコントロールしているに違いない。

鈴木家の肉親以外の参加者は僕と榊ケンケンくんだけである。
榊くんとも30年ぶりだが、慎重なインテリジェンス溢れる話しぶりは昔のままだった。彼はある国家資格を取ろうと勉強を続けているらしい。

家族がいない僕にも30年前のように肉親の暖かさを味わせてもらえた楽しい一夜だった。


大司教、奥様、母上
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三美(みみ)ちゃん、茉莉花(ジャスミン)ちゃん、亜丸(あまる)くん
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茉莉花ちゃん、もう一枚
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銀一郎長老と榊ケンケンくん
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